彩雲国NG裁判



 まずは問題となっているシーンをご覧ください。


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 どたばたどたばたどたばたん!!
「こここここここ絳攸ーーーーーーーっっ!!」
 常ならぬ迫力と鬼気迫る形相で執務室の扉を蹴破ったのは髪を振り乱した紫劉輝、彩雲国国主だった。
 入室一番に名前を絶叫された絳攸はもとより、書翰を蹴散らしてずかずか室に入り勢いのまま絳攸の胸倉を掴みあげて揺さぶりたいといった風情の彼らしからぬ行動に楸瑛も目を見開く。
「な、なんだいきなり!?」
「こ、こ、こ、こけ、こけこけこけこけ」
「雄鶏の真似ですか主上?」
「というかまず人語を喋れ! なんなんだ一体!?」
 なにやら劉輝は相当動転しているらしい。日頃、楸瑛とは別の意味で頭に春風吹かせているぽややんぶりが見る影もない。
 回りこんだ楸瑛がどうどうと興奮する馬をなだめるように劉輝の背を叩く。
「どうしたんです主上。あなたらしくもない」
「こ、こけ、こここけこっ」
「鶏の物真似はもういいですから落ち着いて。似てませんよ?」
「こ、こけー、違うっ!」
 間に入った楸瑛のとりなし――ツッコミ――に、ようやく劉輝から人語が飛び出た。
「〜〜〜〜絳攸っ!」
「だから、なんだ!?」
 けんか腰ですらある呼びかけに、呼ばれたほうもけんか腰で応じる。まるで主従に見えない。
「ああああアレはなんだ一体なんなのだ!? 余は、余は心臓が止まるかとっ―――真朱がっ」
「―――あれがどうかしたのかっ?」
 妹の名に絳攸は表情を変える。


「こ、こここけこけコケたのだっ!!」


 その場で楸瑛もコケた。
 ―――な ん だ そ れ は 。
 壮絶な頭痛を覚えつつ楸瑛は身を起こす。とりあえず見つめあってる劉輝と絳攸が今の失態を見ていなくてよかったと思う。
「……主上いったい何を言ってるんです?」
 至極真っ当な楸瑛の問いは双方に無視された。
 見れば絳攸は顔を真っ白にして愕然としている――妹がただ転んだだけとは思えない反応だ。劉輝の方も尋常ではない。もしや大怪我でも――。




「―――――――――キサマ、見たのか……?




 地獄の底の金輪際の悪鬼を煮詰める大釜の底の絞りカスを煎じてドドメ色と底なし沼色の粉末毒薬を加えて練って練って練りあげたようなわけのわからない喩えだがとにもかくにもおぞましすぎる骨髄液も氷結する声音で絳攸が劉輝に迫る。
 迫られた劉輝が目を反らす。構図が逆転した。
「見たのか、貴様――?」
 さらに迫る絳攸は笑みすら浮かべている。これまた地獄の底の以下略みたいな笑顔だ。恐い。
「あれはふ、不可抗力で」



「  コ  ロ  ス  」



 絳攸が懐剣を抜刀した。
「余、余は悪くないーーーーっ!!」 「殺すったら殺す!! えぇい逃げるな昏殿っ!!」
「嫌だーっ!! だだだ大体知っていたなら兄として絳攸がたしなめるべきであろう!? 余は被害者だー!!」
「ううううるさい言って聞くような奴なら苦労せんわぁ!! ちぃ、ちょこまかと避けるな!」
 展開についていけずやや呆然としていた楸瑛はやや緩慢に思考を再起動する。
 どう見ても絳攸は本気で劉輝を殺そうと懐剣を振り回しているが、劉輝はあれでも一応宋大傅唯一の直弟子だしばらくほっといても大丈夫だろうむしろ真っ当に文官で護身術程度の心得しかない絳攸がその劉輝と傍目イイ勝負をしているのが凄い。混乱しつつこの状況を放っておく楸瑛も凄いが。
 わけのわからないままではうかうか仲裁も出来ない。楸瑛は情報の分析を開始する。

 ―――どうやら真朱が劉輝の前ですっ転んだことに端を発しているのは間違いないのだろうが、それがどうして刃傷沙汰になるのか楸瑛の頭脳を以ってもやっぱりサッパリわからない。

「余だって見たくて見たわけではないーーーっ!!」
 劉輝は何かを目撃したらしい。
「見たくもなかったと!?」
 目撃したのも許しがたいようだが見たくもなかったと形容されるのもそれはそれで絳攸には許しがたいらしい。
「余は秀麗一筋だ! だけど余だって一応男だからそのビックリ嬉しくなかったわけでは」
 男であればビックリ嬉しいモノを見たらしい。
 素直なのは美徳だがこの状況では命取り。
「八つ裂きにしてくれるわっ!」
 案の定、絳攸の振り回す懐剣の軌跡が鋭さを増した。


 ―――真朱がすっ転んだときに劉輝が目撃したトアルものは男であったら心を捧げた相手がいてもビックリ嬉しいナニカであり………なんかだんだんわかってきたような。
 しかしまだ解せない。
 楸瑛がおぼろげながら予測したものを目撃したのであれば、まず兄である絳攸には内緒にして胸に秘めておき念を入れて真朱には口止め料と見物料(笑)を払う。バレたら殺されるとまで行かなくとも絶対殴られるだろうからだ。
 だが劉輝は隠すどころか絳攸に詰め寄った。絳攸は殴るのを通り越して本気で目撃者を消そうとしているではないか。
 ここまで考えて楸瑛は愕然とした。
「………まさか、真朱殿―――はいてなかっ
「常春ーーーーっ!!!」
 血に飢えた懐剣が楸瑛にまで襲いかかった――。





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 以上は本編12話に危く挿入されるところだったシーンである。


 製作動機
 ・挿話直前の話が想像以上に重くなったため、軽く笑いを入れて一話分のバランスを取ろうと試みた。
 ・男→女に変化した場合、女物の下着を装着するのに相当躊躇うのではないかと推測した。
 ・故に、主人公の性格を鑑みると「だったら付けねー」とか言いそうであると推測した。


 罪状
 ・直前の雰囲気をブチ壊すにもほどがあった。
 ・直後の雰囲気をブチ壊すにもほどがあった。
 ・しかもまるで収拾がつかない。
 ・いくらなんでも下品だろ。
 ・いくらなんでもノーパンはねーだろ。
 ・主人公がノーパン派であり、それを絳攸が知っていたならさすがに諌めるはず。命懸けで諌めるはず。命懸けで諌められたら二度ネタであり、一度目たるエピソードをマジで粉塵にする。
 ・作中唯一カタカナ語を使用できる主人公が不在なため、そのものずばりな表現が使用できず婉曲になり、わかりにくい。
 ・ひざ上のスカートではあるまいに、彩雲国の服装ではそれこそ犬神家みたいなコケ方をしないとモロミエは不可能な気がする。想像するとマヌケすぎるような。
 ・服飾に関する資料が不足。デフォルトで穿かない文化だったら端から成立しない話となる。そりゃねーとは思うが。
 ・本館の客層ならともかく(…ヲイ)彩雲国夢を求めてきた人々にこの話はひでーんじゃねーか。


 弁護
 ・コケーコケー言う劉輝をカナリ気に入った。
 ・折角考えたのに勿体ない。
 ・アホな話大好き。下ネタ大好き。


 判決  
 死刑(ボツ)
 しかし情状酌量の余地を認め、WEB拍手にて晒し首とする。








(なんつーかアホな話ばっかり浮かぶんですが脳の病気ですか)





モドル

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