ヲトメへの道のりは遠く果てしなく



 女三人集まれば姦しいという。
 では二人だと……。

「うふふー。わたし実は、こーやって真朱とゆっくりお茶をしたかったの」
 上機嫌で、そんでもってちょっと照れたようにはにかんだ秀麗に胸キュン。
 十人並みの容姿だと本人は言うが、その豊かな表情は、誰とは言わんがちょっとばかし整った顔をしている程度の美少女なんて目じゃないくらい可愛らしい。実のところ、誰とは言わないがちょっとばかし整った顔をしている程度の仏頂面美少女なんぞより、こういうちょっとした感情表現が愛らしい少女の方がずっモテる。
 実際、秀麗は身分年齢を問わずそーゆー意味でもそーじゃない意味でもよくモテる。いわば全年齢対象。
 実際、誰とは言わぬがどっかの誰かはぶっちゃけマニア向け。マニアどもの雄叫びを真朱的にわかりやすく翻訳すると、ロリ巨乳イイとか人形系ミステリアス美少女萌えとかリアルツンデレ乙とか妹ッテイイヨネとかぶちたい縛りたいとかぶたれたい縛られたい踏まれたいとかとかとかああぁそうだよ特殊嗜好向け属性持ちだよドチクショウ。そう一歩間違えれば18禁。そーゆー需要しかない。それが、李真朱である。
 供給の予定は断じてない。
「まぁ、光栄です。でも後宮では皆さんでよくお茶をしたではありませんか」
 たおやかに微笑む少女からは、変態ホイホイである己と変態への罵倒は伺えない。秀麗はその包容力のせいで変人ホイホイといえるが、変態と変人はちがう。変態はすべからず変人(社会的に)だが、変人は(性的に)変態とは限らないあたりが絶望的な差異だ。
 ―――特大の猫をかぶるその下の面の皮の厚さは化粧をプラスしてそんじょそこらの葛藤じゃびくともしない化けの皮が、自慢の面の皮が、気を抜くとヤルセナイ笑みを浮かべそうになる。
 顔面に根性を入れ、李真朱はキラキラっと笑って見せた。胡散臭く見えませんように。

 秀麗は実のところ、同世代の女友達がいない。

 数年前の内乱で、同じ年頃の子供がたくさん死んだ。死ななかった子供は紫州を離れた。
 それでも街に同じ年頃の少女がいないなんてことはないのだが、秀麗は基本的に働いて勉強して家事をして多忙だ。遊ぶ間もないとはこのことである。
 後宮にうっかり放り込まれたあのころは、短いながらも同じ年頃の少女達と過ごした。しかしそこには断崖絶壁の身分の差が厳然と存在した。対等な立場だなんて望むべくもない貴妃と侍女達である。
 しかも秀麗は悲しい現実を目の当たりにした。
「うん………それはそーなんだけどね、それで気づいちゃったっていうか」
 フッと秀麗は遠い目をした。
「わたし、もしかして、もしかしなくても―――同じ年頃の女の子達と………話、あわないの、カモ……って」

 あー。

「は、流行の装いとかよくわかんないし、お化粧もしたことないしっ、人気の読み物も知らないしっ、どこぞの誰がカッコイイっていっても静蘭のほうが美形だしっ」
 さらに言えば恋愛とか縁談とか禁句だしー、ですね。
「貴妃らしく鷹揚に微笑んであまりおしゃべりなさっていませんでしたね、そういえば。聞き上手なのだとばかり思っていましたが」
「実はまるで話題についていけなかっただけなのよう……」
 やんぬるかな。
「別に、今の生活に不満はないのよ? そりゃあ貧乏だけど、最近はお米食べてるし前ほどじゃないしっ! 賃仕事も勉強も家事も好きでやってるのよ。暇だと落ち着かないあたり貧乏ヒマなしって言葉が頭をよぎるけどっ。衣に化粧や恋愛小説買うお金あれば土塀を修繕したいけどっ、でもでもでもこればっかりは貧乏のせいにできないような気が」
「シコウの問題ですよね、秀麗さまの」
 志向というか指向というか嗜好というか趣向というかまぁ全部。ついでに土塀の修繕は施工である。あぁ。
「優しげに微笑みながらザッパリ断言しちゃう真朱が好きっ」
「……ざっぱり?」
 何語。
「あっさりさっぱりザックリぽんっ!!」
「……………」
 それこそ"ザッパリ"性格を一言で表された真朱はぐぅの音でない。てゆーかぽんて。
「でもでも美味しいカワイイお茶菓子持ち寄って、花茶しばきながら女の子同士でキャッキャウフフって華やかなの、憧れてたのよぅ」
 年頃の女の子の、ささやかな憧れである。
茶ァしばくとか言っているあたり不向きなのかもしれない。

 それ以上に―――相方の人選間違えてる。

 うふふーと袖の下で微笑みながら、真朱は胸中で泣嘆した。



「そ、そういうことだったのでしたら、もっと華やかなお茶菓子を用意しましたのに」
 菫の砂糖漬け(笑)とか、根性で泡立てた生クリームできちんとデコッたふわふわシフォンケーキとか、色鮮やかなフルーツタルトとか、準備期間と気力があれば秀麗のささやかな憧れに叶う茶菓子を用意するくらいの男気はある。気遣いじゃない男気だ。手動でメレンゲと生クリームあたり男気以外のナニモノでもない純肉体労働だし、カワイイ女の子に喜んでもらいたいのも男気だ。
「え、そんなっ! 今日のお茶菓子もとっても美味しそうよ! えぇっと……月餅に似てるけど」
「……あんぱんまん、です」
「へぇ〜。餡ぱん饅っていうの」
 例によって誤変換を意図的に放置する完全無欠のウケ狙いの一品だった。よりによって今日に限って。
 知らなかったとはいえ、正直スマン。
「あはっ。ずっと見てるとなんだか顔に見えてくるわね、コレ!」

 顔ですから。

 真朱はそこはかとなく目を逸らした。
「わたし餡ぱん饅って初めて食べるんだけど、なにか食べ方の作法があるの?」
「え、えーっと……まぁお好きに食べてくださればそれでいいのですが強いて言えば……こうやって、正面から右斜め上をちぎってですね」
 むしっとちぎる。
「ふんふん」
サァボクノカオヲオタベヨと言いながら誰かに食べてもらうのが様式美」
「ほんとに顔っ!!??」

 顔です。

「顔だと思うとちょっと食べにくいわね……どこから食べたものか。がぶっといくとまるで頭から丸かじり……」
「頭しかありませんしね」
 某東京銘菓同様、食べ方でちょっとした性格診断ができるだろう。
「ちなみに、好きに食べろと言ったら皮剥いで中の餡だけ先に食べ尽くし皮をザクザク切り刻んで完食した人が一番猟奇的でした」
「……………」
 黎深だ。
 ドン引きしている秀麗に、あなたの叔父ですとは言わないでおく。
 ちなみにその姪秀麗は、ためつすがめつあんぱんまんをいじくり回した後、まずでかっ鼻をむしって食べた。


 性格診断はしないでおいた。



「さて今日の本題だけど」
「本題なんてあったんですか」
 痛恨の人選ミスに始まりウケ狙いのネタ茶菓子に続きキャッキャウフフどころか気を抜くと乾いた笑いが漏れてしまうグダグダなお茶会に、本題があったとは。
 真朱は素で驚いた。
「あるわよ。そりゃああるわよ。聞きたいことたくさんあるんだもの」
 んげー。
 秘密というより"言いたくないこと"が多すぎる真朱はちょっと身を固くした。
「今日はもっと当たり障りのないことだからそんなに警戒しないでよ」
 今日は、ですかい。
「……はぁ。あの、顔に出てましたか?」
「出てないわよ。穏やかな笑顔だわ。完全無欠の笑顔だわ。清楚可憐な笑顔だわ」
「じゃあ何でわかったんですか?」
「乙女のカンよ」
 あなどれねーなオイ。
 一応曲がりなりにも肉体の性別は女であるはずなのに、女のカンがまるで働かない真朱としては恐れ慄くしかない。
「後宮のお茶会でわかったことだけど、聞き上手だったのはわたしじゃなくて真朱の方でしょう。わたしはそれこそマァウフフオホホって笑ってただけだけど、真朱は質問には答えてたし、的確な助言もしてたし、つまりすべての話題についていけていたと見たわっ!」
「……………はぁ、まぁ」
 流行と化粧は発信源だし娯楽が少ないから書物に関しては古典詩歌から恋愛小説までなんでもござれの雑食。だがしかしどこぞの誰がカッコイイに関してはへーほーへーで相づちどころか聞き流していたのだがそこはそれでいいらしい。そこはまかり間違っても絳攸の方がかっこいいなんて言わない真朱である。
 否、そここそがポイントだったのかもしれない。つまり真朱も恋愛縁談はNGワードなのだとバレてる。真朱からそんな話題を振ることはないし秀麗もしかり。なんて安全牌。
「まず、その細腰の秘訣を教えてほしいの。お礼はわたし自作の涙チョチョ切れるいじましい節約菜譜なんてどう? 真朱お嬢様なのに好きでしょ」
「……ワタクシはかまいませんが、秀麗さまそーゆーのあんまり興味ないのではなかったのですか?」
 あえて女人であることを全面に出そうとしない少女である。あまり興味がないというのも事実だろうが、積極的に興味を持とうとしていないようにも見える。

「………そーゆーのにあんまり興味がなくたって、守らなければならない一線が、乙女にはあるのよ」

 季節は秋。

 真朱は、ぴぃひょろろと飛んでいく鳶をうつろな視線で追いかけた。
天高く、馬肥ゆる秋……」
「そこは気づいても情けをかけて真朱ーーーっっ!! ご飯がおいしいのよーーーっっ!!」
 乙女の絶叫が秋晴れに響きわたる。



「こんなこと初めてなのよ。今まで食べるのがぎりぎりの生活だったんだから。なのに今年は………」
 某高貴なるお方からの愛の貢ぎ物。
 もらったものはきちんと受け取り、それが食べ物ならばもちろん食べる。残す捨てるなんて選択肢は腐敗しない限りあり得ない。
 ―――恋愛なにそれたべられるの。食べられる形の愛は、愛だろうが憎だろうが血となり肉となりそれが過ぎたら脂肪となるのがこの世の摂理。
「今どんな状況ですか。包み隠さず教えてください。状況により対処が異なりますので」
「一言でいえば………軽くヤバイわ」

 よーっくわかった。
 今、世界の壁を越えた相互理解意志疎通が成立した。

「つまり軽くツマめる、と」
「だからそこは情けをかけててばぁーーっっ!!」
 涙目で絶叫した秀麗に、あぁやっぱり女の子いいなぁとか思った。
「でもちょっとありえないです秀麗さま。秀麗さまの日常的な運動量を考えるとドンダケ食ったんだアンタとか思わざるを得ません」
「すうっごく食べたのよっ!!」
 超潔い天晴れな即答だった。
「………すっごく、食べたんですか」
 オウム返しするしかない。やけくそで胸を張る秀麗が雄々しくも痛々しい。
「ま……まず、ですね。原因を突き止めましょう」
「わかりきってるわよ。食べ過ぎよ。えぇ食べ過ぎですとも。でもご飯を残すなんて選択肢はないわ。お天道様が西から昇ろうとあり得ないわ」
「いえいえ。そもそも何でそんなに作るんですか。そこから話を始めましょうよ」
「腐る前に食べるためよ」
 それがこの世の真理だとばかりに、秀麗は断言した。
「お米と根菜はいいのよ。そのままでも結構保つから。でも菜類やお肉はだめだわ。すぐしおれるしすぐ腐るのよ。もちろんできる限り日持ちするようにすぐ加熱したり加工して手を加えておくんだけど何事にも限度があるじゃない? だから限度を迎える前に食卓に乗せるわけよ。解せないのは父様よ。静蘭は武官だからそれこそ運動量が違うんでしょうけど、何で日がな一日府庫で本読んでいる父様が一向に太らないのよ。なんでよ」
「…………………」
 王様、乙女的に恨まれてますよ。
 真朱は心の中で恋する青年に語りかけた。秀麗には気の毒だが、おもしろすぎるので放置しようと思う。
 というか、とある高貴な恋する青年に思い人への貢ぎ物の相談を受けた際、面倒くさかったので「食べ物がいいんじゃないですかー」と適当な答えを返した女官がいた。
 誰か。
 真朱だ。
「……………………」
 言わないでおこう。
 真朱の分厚い面の皮の下で冷や汗が流れた。



「そこで、よ。細腰の秘訣よ。なんでそんなに細いのよ真朱」
「はぁ」
 ここで"体質です"とでも答えようものなら会話がブッた切れる。
「……そんなに細いですかね」
「無自覚っ!? 自覚なしっ!? てことは努力してないのっ!? なにもしないでその細腰っ!!??」
「うひょう!?」
 すさまじい食いつきだった。真朱のけぞる。
「天然っ!? 天然柳腰なの!?」
「なな、ななんか腰にこだわりますねっ!?」
「だってないモノを大きくするのは難しいけど、あるモノを小さくするのはできそうじゃないっ!?」
 ナイモノ=乳。
 アルモノ=腹肉。
「………………」
 コメント出来ねぇよ秀麗サマ。
「そう、そうなのね。真朱は逆だからこの気持ちわかってくれないのね。分かちあえないのね」
 アルモノ=乳。
 ナイモノ=腹肉。
「………秀麗さまちょっと目がコワイ」
「だってだってぇわたしの方が年上なのにぃ……」
「え、えー? そこ? そこが問題ならそれこそ問題ないですね。ワタクシ公称年齢は秀麗さまの一つ下ですが実際のところもうちょい上ですよたぶん」
「っえ!?」
 さらっと年齢詐称バラした。
「餓死寸前のところを、今の養い親に拾っていただいたんですが、発育不良の極みにありましたし、5歳くらいに見えたけれど実際のところはマトモに育っていなかっただけでもうちょい年を食ってただろうというのが己の推測ですが、まぁ……究極的にはワタクシ自分の年齢なんてどーでもいいんで」
 実際のところ、肉体年齢は秀麗よりやや上だと踏んでいる。が、黎深の立場上、真朱の年齢は秀麗より下である方が都合がいい。紅家当主の養女が年齢的には血筋的本家の方々差し置いて年功序列で長姫になっちゃうとか考えるだけで面倒くさい。吐き気がするほど面倒くさい。黎深さまナイス判断。
 精神的には2、3歳では済まないサバ読みっぷりである。つまり今更なのである。
「……そう、だったの」
「そうだったのです」
「………不躾にごめんなさい」
「気になさらないでください。いろんな意味で」
 具体的には、乳的な意味で。比較しないでほしい。年齢は気にしていないが、そこばかりはどうにもやるせない真朱である。
「それでもちゃんと、ここまで成長しましたから」
 乳的な意味じゃなく
 拾われた直後の真朱はそりゃあもう酷い有様だったのだ。事細かに描写すれば秀麗だったら身につまされるものがあるだろう。具体的には内乱のあたりを不要に思い出してしまうに決まってる。
 立てなかったし歩けなかったし五感はほぼ働いてなかったしやせ細っていたしそらもう酷かったのだ。かかった医者には成長出来ませんと断言されるし踏んだり蹴ったりだ。
 実際、黎深式幼女調教―――黎深付きっきりの動作訓練―――がなければ、今こうして日常生活を送るのも難儀していたはずだ。絳攸と手を繋いで歩くのは昔からの癖だ。絳攸に手を引かれなければ、歩くこともままならなかったころの名残である。
「細腰の秘訣かどうかはわかりませんが、とりあえず毎晩寝る前にストレッチ……あーと柔軟体操をしていますね」
 真朱さんは筋トレ出来る筋力がないので、柔軟オンリーであるが、熟睡できない体質なので、睡眠の質の向上のために寝る前の軽い運動は必須だ。
「ね、寝る前に柔軟体操ねっ!!」
「はい。後は、座りっぱなしで体が固くなったりしたときに、フープ回してます」
 いわゆるフラフープ。ただしフラフープはたしか商品名。
「ふーぷ?」
「あー………だから、えぇっと、これっくらいの、大きな輪っかをですね、腰でこうぐるぐる回してます」
 蔦で作った超適当、もしくは原始的なフープだが、結構回せるものなのである。真朱は慣れたもので、書類や書物を読みながらぐるぐる回している。
「これっくらいの輪っか、ね」
 ふんふんと秀麗は熱心に相づちを打つ。
「あとはー……お肉が好きなんですが、意識して野菜いっぱい食べるようにしています。季節のものを、少しずつでも色々と。油は控えめにしています。お米はあまり食べないようにしています。時々雑穀を混ぜてもらいます。前日食べ過ぎたら、後日控えます。青汁と豆乳を混ぜたものも毎日飲んでいますいそふらぼん。なるべく歩くようにもしています。やむにやまれぬ事情がないとき以外、早く寝ます。ご飯は三食食べます。お菓子は実はあんまり食べません。お風呂は熱いお湯ではなく、半身がつかるくらいのぬるま湯でじっくり汗をかくようにゆったり時間をかけて入ります。他にはー」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとまってー!!」
 出るわ出るわ出るわ。
「そ、それ全部、毎日やってるの真朱!?」
「無理はしませんが、無理でなければ基本的には守っています。主に健康のために」
 美容は後からついてきた。
 さらっとなんでもないことのように答えて、真朱は少しさめたお茶に口を付けた。
「…………どれが細腰の秘訣?」
「………さぁ?」
 真朱はコテンと首を傾げる。
 元カノ達の日課を覚えている限りそのままマルっと真似しているだけの真朱に、効果効能なんてわかりやしないのである。
「わかりませんけど、とりあえず、太りませんね、ワタクシ」
「おっ………おみそれしましたっ!!」
 天然柳腰といって絡んでごめんなさいでした。ごめんなさい。ほんっとうにごめんなさいでしたっ!!
「やっぱり、綺麗な人はちゃんと努力しているものなのね!」
「努力といいますか………ただのヤケクソ」
 ぼそっと付け加えた台詞は聞こえなかったらしい。秀麗は感心しきりだ。
 そう真実はただのヤケクソである。
 女になりたかったわけでもないのに気がついたら女になっていて、立場上みすぼらしいナリをしているわけにもいかず、どうしたって手間をかけなければならないので、仕方ないので己の好みのイイ女を追求してみたが身長が絶望的に足りなかった。太すぎず細すぎず、若干肉感的なぐらいで容姿に手間暇かけているタイプが好みだったのに。
 とりあえず小柄で華奢なのを使って清楚可憐なタイプで落ち着いている。本人の性格が装いに全く反映されていないのもそのせいである。反映されていたらもっとエキセントリックだ。
「わたしはちょっと全部やってみるのは難しいわね……」
 いつの間にか懐から料紙と筆を取り出し熱心に書き付けを行っていた秀麗がため息をつく。
「出来ることだけでよいのではないでしょうか? ワタクシのは、返す返すもヤケクソなので」
 やっぱり末尾はぼそっと言う。
「そうね。そうするわ! ありがとう真朱!! すっごく有意義な時間だったわ!!」
「それはよろしゅうざいました」
 真朱は芝居がかった礼を取る。


「「あ」」


 キャッキャウフフ?








(両者共に、致命的にキャッキャウフフな才能が、ない)





モドル

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