蟲と狼 新月の夜だった。 押し殺した忙しない呼吸に、幽かな衣擦れ。 時折立ち止まり、息を整えながら周囲を窺い、堪えきれない安堵の吐息を零しながら、再び意を決して顔を上げ―――足を庇いながら走る、足音。 手負いの獣が逃げ惑いつつも諦めていない。そんな獣めいた往生際の悪さと、思考に思考を重ねる獣にはありえない賢しさを感じる。 どう贔屓目に評価してみても素人でしかないその足音は、そもそも運動神経も反射神経も人並み以下だろう。それでも周囲を定期的に窺う様子は荒い呼吸に反比例して冷静そのものであり、壁を伝いながら暗闇を自在に歩いているのだから宮城の地図が脳内に完璧に収まっているということだ。これは中々だ。 実行犯よりも参謀向きだ。 微かに聞こえる足音のみで、紅邵可は足音の主をそこまで分析してみせた。 その沓音の主が府庫の扉をガチャガチャと鳴らすに至って、邵可は読んでいた本を閉じ、蝋燭を吹き消して闇と同化した。消したばかりの蝋の臭いが鼻につかないように蓋をする。こちらは完全無欠の玄人の所業で、物音一つしなかった。 ガチャガチャと闇夜に響く騒音に紛れて、邵可は扉の鍵を開けた。そして完璧に息を殺し様子を窺う。 しばしして、扉に張り付いていた人物は鍵が開いていることに気づき、今更ながら音と呼吸を殺して、そぅっと府庫に侵入を果たして特大の溜息をついた。 窓辺から差し込むほんの僅かな星明りを頼りに手近な卓子にヨタヨタと歩み寄ると、火打石を鳴らして蝋燭を灯す。 細い灯火に浮かび上がった白面は、邵可の義理の姪のものだった。 予想外の珍客は邵可の気配に欠片も気づかず、燭台を頼りにソロソロと移動する。 書棚を縫って歩き、時折立ち止まり蝋燭を掲げて背表紙を確認しているところを見ると、何か本を探しに来たらしいことはすぐにわかる。 しかし、何故こんな夜更けに。 女官が端とはいえ外朝である府庫をおおっぴらに歩くことは赦されないが、彼女は邵可に勝るとも劣らない雑食の読書家だ。いつもはもっと上手く人目を避けているし、邵可も融通を利かせている。 僅かに足を引きずった少女は目的の書物を発見したのか、燭台を倒れぬように卓に置いた。次いで、えっさほいさと踏み台を用意するに至って邵可は習い性で気配を消して隠れおおせたことを軽く後悔した。しかし、今更ノコノコ登場するのも奇妙だ。 少女は肩衣をぐるぐると両手に巻いて、猛毒の危険物に触れるかのように何冊かの書物を書棚から抜き取って、静かに踏み台から降りた。 その不審な行動の意味を察し、邵可は今更ノコノコ登場することにした。 「誰かいるのですか?」 「ぎにょあ゛っ!?」 飛び上がった少女はおそらく垂直飛びの自己新記録を更新した。 「え、ひ、あ、うぁ!? しょ、しょしょしょショーカさまっ!? おおおおおおお晩ですいい夜ですねっ」 いけしゃあしゃあと目を見開いて驚いてみせた邵可の登場に、こちらは正真正銘仰天したものの不審は抱かない。紅邵可は府庫の主である。時々本に夢中になって、府庫に泊り込むことを娘あたりから聞き及んでいるのだろう。悪戯の現場をおさえられたような顔をしたのは真朱の方だった。 「これは―――真朱殿ではありませんか。お倒れになったと聞き及んで心配していたんですよ」 「倒れ? あ………あーあーあー。アレですね。倒れてません。五日ほどぶっ通しで寝続けてただけですから心配ご無用でございます」 少女は一瞬"思い出したくもねぇ"とばかりに顔を顰めたが、すぐさま笑顔でソレのドコが心配ご無用なのか甚だ疑問な実際のところをぶっちゃけた。 事情は珠翠経由で知りつつ、少女が仮にも少女の姿形をしていて、邵可が男性であることを鑑みると深く踏み込めない事柄なため、邵可と真朱は互いに曖昧な表情で薄ら笑った。 五日ほどぶっ通しで眠り続けたという少女は、乏しい光源の下でもわかるほどに痩せた。 「今は元気です」 「………そうですか。それはそうと、こんな夜更けにどうしたんです?」 "病み上がり"と評すには語弊があるが、体力が低下しているのは一目見ればわかる。 邵可のもっともな問いに、真朱は数冊の書物を大事そうに胸に抱えたまま、左足を庇いながらジリジリと後退した。えへ☆ なんて可愛らしく笑って誤魔化そうとしているが、その笑顔が通用するのは(見惚れるではなく、恐れ戦く)彼女の兄くらいだ。 「………左足を、どうかしたのですか?」 やや引きずる足をこれ幸いと指摘すると、少女はギクリと身を強張らせ、明後日の方向を向いて明々後日の方向を向いて、上を向いて下を向いたが邵可がまるで視線を逸らさないと悟ると渋々と白状した。 「…………………………………ちょっくら……………サソリに」 「蠍っ!?」 今度は演技でなく目を向いた邵可に、真朱はワタワタと手を振る。 「いやチクンと来てちょっと腫れただけで一撃必殺のサソリじゃないですよないはずです絶対。だってまだ生きてるしっ!! 元気元気っ!!」 ―――確かに、蠍と蛇といえば悪名ばかりが先行し、漏れなく猛毒であるような気がしてしまうものだが、実際に彼女の言う"一撃必殺"な猛毒の持ち主である種はほんの一握りでしかない。 とは言え。 「一体どうして―――………」 「………どうもこうも。サソリなんぞに夜這いをかけられてビックリしてるのはワタクシの方ですわ。丁重にお断り申し上げましたのに聞く耳を持たず無理強いですの。女性に嫌われるわけですわね!」 姫君らしからぬ、しかし彼女らしい皮肉が返答に代えられる。 純朴な者なら泡を食うような比喩だが、伊達に年食っているわけではない邵可は正確無比に意味を拾った。 「寝台に、蠍を仕掛けられたのですか」 冷静な応えに真朱はちょっと沈黙した。 「……えぇ、まぁ―――ですが、本命はコッチかな、と思いまして。夜分遅くに申し訳ありませんでしたが、無関係の方が巻き添えを食らうようなことがあればお詫びのしようもございませんし」 素手を衣で厳重に梱包して少女が掲げたのは、本草書と博物誌。 さらに、懐から取り出した手巾からは圧殺された蠍の抜け殻。 真朱は忌むでもなく蠍の死骸を白い指先でつまみ上げると眼前にぶら下げる。 刺されつつ仕留めてみせるとは天晴れだ。蛇蝎を前に顔色一つ変えない少女というのも珍しい。どうにも一筋縄でいかない義理の姪に呆れ半分感心半分、怒り少々を抱きつつ、邵可は目を凝らすでもなく蠍の種類を看破してのけた。 ―――大丈夫。これは大した毒のある蠍ではない。とある地方では素揚げにして食用にするくらいだ。 「コイツに刺されたわけですが、奇しくもこの種は蜂程度の毒性だとワタクシは知っておりました。ですが、知らなかった場合―――焦りますよね?」 焦るどころか恐怖のあまり混乱するはずだ。 「焦ったらどうするかなぁ、って考えたんです。ドキバクしながらしばらくたっても自分が息絶える様子はない。大丈夫だと思う。だけど確信はない。刺されたところは当然痛む。死ぬほどの痛みではない。しかし確信はない。であれば、医官の元へ全力疾走するか、オオゴトにしたくなければ………ま、自力で調べるしかないですよね。手当ての方法と、死なない保障を」 そこで、本草書と博物誌。 「ひとまず大丈夫だと思っていたところで―――」 よっ、と気軽なかけ声に反比例する慎重な手つきで真朱は書物を振る。 「ザシュぶすーっとくるかな、と」 本草書から仕掛け刃、博物誌の背表紙から針が飛び出した。 「………大当たり」 陰険な手口を見透かしながら、誇るでもなく少女は肩をすくめた。 「それ以上触らないでくださいっ!」 仕掛け刃と針を手巾で拭っていた真朱は常にない邵可の鋭い声にビクリと身を竦ませた。 「………でも、」 「府庫の主は私です。此処の書物にこのような仕掛けを許してしまい申し訳ない。私の落ち度です」 「えー!? お、お言葉ですが邵可さま、それは全くもってお門違いです!」 「違いません。罠の解除は私がします。本を置きなさい」 秀麗あたりから滔々と邵可の不器用さを聞き及んでいるのだろう少女は物凄く躊躇った。 「出来ません」 躊躇って、拒絶した。 「真朱殿」 「邵可さまに何かあったら、秀麗さまと静蘭殿に顔向けが出来ません。黎深さまには八つ裂きにされますっ」 「同じことです。貴方に何かあったら、私は黎深と絳攸殿に顔向けが出来ません」 互いに譲らず、ジリジリと蝋燭だけが短くなる。 「―――貴女の、優しさと賢さはとても得難いものだと思います」 「恐れ多いにも程がある買い被りです」 少女は極々冷静に返した。 「貴女と兄君にはとても感謝しています。あの黎深に、得難い優しさを与えてくれる」 「何もかもを与えられているのは、ワタクシの方ですわ―――俺はいつだって、絳攸のように上手く出来ない」 この言葉を耳にしたら、彼女の兄である青年はなんと言うだろうか。 「私は、黎深の兄です」 「………………」 「ひいては、貴方がたの叔父です」 「………………恐れ多いですって」 「ほんのちょっとでいいんです。甘えてくれませんか。黎深には内緒で」 「……………………筒抜けるんですよぉっ!! 何故かぁっ!!」 アレとかアレとかコレとかソレが、目撃されているはずもない悉くを黎深は何故か知っている。おかげでヘマも踏めやしない真朱はカラクリを知らぬ義父の恐るべき地獄耳を警戒してさらに邵可から距離をとった。とらないでか。 「筒抜けるのなら丁度良いではありませんか。黎深は私のことが大好きで、てんでヘタレなんですから」 邵可は得たりとばかりに超笑顔で断言した。 言っちゃったよ。 少女が珍しくも目を白黒させた。その直後、この会話も筒抜けるとなるとチョー面白いと心底思ってしまった。ふへ、と笑みがこぼれる。 「いいですか真朱殿。私は、放逐されたとはいえ紅家の長子で、鼻つまみ者でありながら、黎深の兄なんです」 ゆったりと。 噛んで含めるように語った言葉の真意を、少女は瞬き二つで正確に把握した。 「………………、」 追われた家名を、今更邵可が振りかざすはずがない。 国で、一、ニを争う名門紅家。その長子でありながらすぐ下の弟を除いた親族の全てに出来損ないと断じられ、すぐ下に優秀すぎるほど優秀な弟がいたから故に、鼻つまみ者など生温いほどに、目障りでしかなかった長男が、あの家で、疎まれ続け、それでもなお五体満足で今も好きなことをし続けているという現実の意味するところを。 つまりこの人は、ニコニコ笑顔で優しそうな顔をしていて彼女の義父とは似ても似付かぬようで、紅黎深の兄であることの意味を、聡い少女は悟った。 「さぁ、それを渡してください。貴女より上手に解除する自信があります」 「――――わかりました」 少女は暗い天上を仰ぎ、特大の溜息をつく。 「そこで、見ていてください。ワタクシが手順を間違えたら、すぐに注意してください。邵可様に従います」 なおも、自分でやると少女は譲らない。 李真朱は理性の試算した損得と、保身と他人を思いやる感情、対極の二つを計りにかける禁忌の天秤を脳内安置する外道である。 「これは、俺の仕事です」 ほんの一瞬、鋭い視線を交わしあい、彼らは互いにこれが最大限の譲歩だと理解する。 「貴女も―――頑固ですね」 今度は邵可が溜息をつく。 「それは、しょーがないんです。義理とはいえ、黎深さまの娘を名乗り、義理とはいえ、邵可様の姪なんですから」 「そうですね。それは―――仕方がないですね」 月のない夜、三日月のような苦笑が嵩にかかった。 「その仕掛けには触らないでください。そう。針はそのままでは抜けません。背表紙の下をくぐらせて―――」 「取れたぁ!」 邵可の指示の通り、毒針を解除した真朱は場違いなほどあっけらかんとした歓喜の声を上げた。 そんな少女の様子に邵可は何度目かもうわからない苦笑を漏らし、表情を改めた。 「さて、本題ですが」 「本題ですか」 「本題です。蠍とこれらの姑息な罠を仕掛けた不届き者に、心当たりはおありなのですか?」 「………………さぁ?」 真朱は邵可の目を見たまま小首をかしげた。 「犯人なんて、誰でもいいし」 心底そう思っているのだろう、大雑把な返答だった。 少女は、嘘をつかない代わりに、どうとでも取れる答え方をする。その真意を正確に読み取れるのは黎深くらいのものだろう―――彼女の兄は恐らく出来ない。 「………"誰"が、犯人なのか追求する気はない、ではなく―――誰"を"犯人"に"してもいい、という意味ですか?」 「トカゲの尻尾の有効利用、と婉曲に表現していただけませんか………」 証拠にならない証拠でもって、犯人でっち上げる気満々だった真朱はそのものズバリな指摘に遠い目をした。 己の思惑を他人の口で語られると客観的に判断してしまう。外道過ぎる。主観的には正当防衛のつもりだった少女は自覚以上に荒んでいた自分にビックリした。 だが、それくらいでちょうどいいと考え直す。 手段を選ばないのは、いつだって―――選べる手段がなかったからに過ぎない。手垢に塗れた手札とて、役が揃えばそれでいい。 某将軍と女官長を巻き込んだ水面下の大騒ぎから五日、目覚めて半日。そして蠍。 さすがに早い。しかし愚鈍。五日もの時間をくれてやったというのに。 「ふふふ。正直予想はしてましたけど………予想以上の反響にドン引きです」 だって、ありえない。 たとえ、 哂った。 「笑い事じゃありませんよ真朱殿」 「笑って済ます気は、ありませんが?」 そう言いつつ、少女はニコニコ笑っている。 そういえば、と邵可はウッカリ思い出した。彼女は黎深に一服盛られて後宮にやってきたのだ。 日常的に義父の毒物混入を警戒し続けていた彼女を毒殺したければ、まず黎深並みの腕前を求められるということで……………おもむろに安心した邵可に罪はない。 「あー悔しい。黎深さま絶対、色々見越してやってたんですよね。なのに気が付いたの、マヌケなことに秀麗さまが後宮を辞してからですよ。チョー意味ねぇしっ」 「そんなことはありませんよ。誰かを守るためにはまず、自分の身を守ることが大切なんですから。黎深がそこまで見越していたというなら、頭撫でてあげます」 「幸福の絶頂で泡吹いて倒れるでしょうからやめてあげてください」 ようやく、他意なく破顔した真朱に釣られ、邵可は表情を和らげた。 「犯人なんて、本当に、心底どーでもいいんです。ワタクシはまかり間違っても聖人ではない。憎まれたら憎み返します。同じものを返す主義なんで。殺されかけたら、殺しますよ―――誰かを、特定してしまえば。だけどそれだけは、絶対にしない。だから犯人なんて心底どーでもいーんです。人殺しなんてやってらんなーい」 自分本位の飾りをつけた、冷たいのに甘い言葉。夏の日に少女が作ったあいすくりぃむのような少女。冷ややかに甘い。優しくは、ない。 それでも、沢山の―――沢山の命を、摘み取ってきた邵可は耳が痛くなる綺麗事だった。 ただし、心は痛まない。後悔がないからだ。 興味を、抱いた。 邵可がかつて問われ、答え、欺瞞を暴かれ厳しく叱られたあの問いに、この少女はなんと答えるのだろう。 だれよりも綺麗事を信じて、だれよりもその手を緋に染め続けた女性と、無垢な手の平を握り締めて、信じてもいない綺麗事を本音として語る少女の輪郭が、似ても似つかないのに何故か重なった。 「―――守り抜きたい、大切なものはありますか? そのために人を殺してもいいと思えるほど、大切なものが………人が」 少女は怪訝な顔をした。 相手が邵可でなかったら"アンタ直前の台詞の何聞いてたんだ"とぶちまけただのだろう。 「もういない」 少女は軽やかに笑い、邵可は彼女の真意を測りかね、重ねて問おうと息を吸い―――それを見つけて、愕然とした。 「………邵可さま?」 思い返せば、穏やかに笑った顔しか見たことのなかった邵可の常にない表情に真朱も表情を変える。 嘘は、つけないのだが。冗談でも"黎深たま"と言っておくべきだっただろーか。 「………―――気づいていますか?」 「何を、でしょう」 「―――肩に、蟲が」 今更、虫如きで顔色を代える可愛げなんざありゃしねぇ。 左右の肩を見やる。何もいない。 「えっと、どちらの肩でしょう?」 「………右肩でした。いえ、今はいません。しかし、落ちていません」 謎かけのような言葉に、真朱は眉をひそめた。 「参考までに訊ねますが………どんな虫でした?」 「そうですね。金色の、蚕のように、見えました」 特大だったが。 「へ、ぇ。金色の蚕ですか―――は、あはは。金蚕と来たか!」 蟲の名を言い当てて、真朱は高らかに笑った。 「本命中の本命はコッチかよ!? ハ、アハハ、はははははははははははっ!!!」 手を叩いて笑った。 「真朱殿っ!」 「あーっはっはっはっはっは!! 傑作だっ! ありがとうございます邵可さま! そんなもんに憑かれてたなんて全然気づいてませんでした! あはははははは!!」 あまりにも朗らかな冷笑に、邵可は続ける言葉をなくした。 何がそんなに面白いのか、彼女は笑い転げて会話もままならない。 問い質そうにも―――もう、夜警の者が府庫付近を巡回に来る頃合だ。 「真朱殿、そろそろ……」 「げふぐふごふ。あ、ヤバ」 我に返って声を潜め、腹を抱えながら何とか身を起こした少女は、毒物の付着した肩掛けを懐に仕舞った。 「けふ―――本当にありがとうございます。人目につかないうちにとっとと室に戻りますわ」 「…………仕方、ありませんね。それがよろしいでしょう。暗いので気をつけて」 邵可は問いかけの諸々の追及を断念した。機会があれば、彼女はいつでも答えるだろう。 誤魔化すし、欺くし、沈黙するし、表情と口調で煙に巻くが―――問い方さえ間違えなければ、嘘をつかない彼女はどんなえげつない問いにでも反射したまま、どんなに醜い心でも、馬鹿正直に答える。 「重ね重ね、ありがとうございます」 深々と腰を折った少女の肩に、蟲を象った呪詛が憑いて―――離れない。邵可は刃のように目を細めた。 「一つだけ確認させてください」 「なんなりと」 「呪術の心配も、不要なのですか?」 得たりと刻んだ笑みこそ誇らしげに。 「専攻です」 毒食わば皿までとは、よく言ったものだ。 「守るものの無い者の―――ある種の強さと戦い方―――とくと御覧あれ」 手出し無用を言い置いて。 少女は鮮やかに踵を返し、新月の闇に解けて行く。 窓の向こう、星は冷えて澄んだ夜空に瞬く。 新月の夜空、点々と浮かぶ星屑がささやかに主張する。 とくと御覧あれ、と。 (やっと再録。忘れてたなんてオチはない。ないったらない!) △ モドル ▽ |