彩雲国名作劇場 らんらんらーらんらんらーじんげんじんげんくらぃねぶりーんだー♪ ♪らんらんらーらんらんらーじんげんぶりーだすらーら!♪ む、コホン。 えーとね。フランダース……通じねぇか、んじゃ橙州ってゆー架空の州の田舎の村にー、根(姓)呂(名)ってゆー素直で真面目で働き者で画を描くのが大好きな男の子がいたんだよ。うん。 はやくに親を亡くして、ビンボーだったけど村の人に仕事を貰いながら、たった一人のおじいさんとふたりっきりで細々と仲良く暮らしてたんだ。 根呂の夢は二つ。橙州にある大道寺に納められたーキリストの――いやキリストじゃ駄目だ……えっとそう! 彩八仙を描いた超名画を見たいってのと、いつかは、かの碧幽谷のような立派な画家になりたいなー と、いっぱい画を描きながらベンキョーしてたわけよ。 そんなあるときー、根呂は金物屋に扱き使われた挙句捨てられた老犬を拾うんだな。 名前? パトラッシュ。 変な名前だとぅ!? パトラッシュはパトラッシュでタローでもポチでもピンとこねーんだよ違うんだよ! パトラッシュはパトラッシュでいいんだよっ!! ゲフンゲフン……わかればいーんだわかれば。続けっぞ? あーと、そのパトラッシュは根呂とおじいさんの献身的な看護のおかげで元気になってな。賢いパトラッシュも仕事を手伝ってくれるようになったんだ。ビンボーだけど幸せな日々だ。 そんでな、橙州で画の品評会が行われることになって、根呂はそれに出品することに決めんだ。画家になりたいしー、賞金も出るから。 でもな、おじいさんが死んじまうの。 老衰? ちがうんだよ……パトラッシュを捨てた金物屋のオヤジがなー、元気になったパトラッシュを見て、捨てたくせに返せって言ってきたんだよ。 パトラッシュはもう家族だ。だからおじいさんは断った。そしたら金物屋のオヤジは銀三両を請求してきやがったんだな。 ………おじいさんは頑張って働いた。はたらいてはたらいて、くたびれて死んじまったの。 あ? 銀三両は余が払う? あんたが払ってどーするよってゆーかどうやって払うんだ! 金物屋のオヤジを罰しろ、勅命? あほか!! あー。 まぁ、最愛のおじいさんを亡くしてだなー、根呂は悲しくて画が描けなくなっちゃったりするし、追い討ちをかけるよーに、村の穀倉庫が不審火で全焼しちまうの。 そんで、根呂が村長から疑われちまうの。 だから仕事も貰えなくなって、家賃が払えなくて家もなくして、最後の希望を託した品評会にも落選して、根呂はパトラッシュと雪の中を彷徨うんだ。 雪の中、根呂とパトラッシュは大金の入った財布を拾う。これは村長が穀倉庫の再建と燃えた穀物の保障に村人に支払う大切なお金だったから、根呂とパトラッシュは村長の家へ行って、この財布を そっと置いてきた。うんうん。正直な良い子なんだよ。 でなー。根呂は村長の娘のー幼馴染の女の子にパトラッシュのことを頼んで、自分はまた雪の中に消えるんだ。 根呂は一人で何処へ行ったって? 行くアテなんかなかったさ。でも名画のある大道寺に辿りついたんだ。導かれるようになー。 そのころ村ではお金を拾ってもらった村長が根呂を疑ったことを後悔して、村人総出で根呂を探す。そこへやってきたのは品評会の審査員。根呂の画の才能に気づき、是非とも彼を引き取って画を学ば せたいと申し出てくれたんだ。皆で根呂を探した。でも見つからない。しかもパトラッシュもいなくなっていたんだこれが。 パトラッシュはジーさん犬だ。もーほんと限界だった。だけどパトラッシュは走った。最後の力を振り絞って、そう、根呂のもとへ! 根呂は大道寺で倒れてた。 パトラッシュは根呂に駆け寄る。そうアレだあの名場面命台詞! 「パトラッシュ……きてくれたんだねありがとう」 アレだ。 一人と一匹は寄り添って、固く抱き合う。 そのとき奇跡が起こるんだ。 いつもは厚い垂れ幕がかかって見えない彩八仙の画が、風もないのに衣が捲れて、見えたんだ。ルーベンスの絵じゃなくて彩八仙の画が! そう、きっと彩八仙の加護だったんだろうさ。 念願かなった根呂はパトラッシュとともに天へ昇っていく。 大好きなおじいさんのところへ――また一緒に、二人と一匹で、仲良く暮らすために――。 らんらんらーらんらんらーじんげんじんげんくらぃねぶりーんだー♪ らんらんらーらんらんらーじんげんぶりーんだすらーら♪ 橙州の犬〜終〜 ―――確か大体こんなもんだったと思う。 元ネタはいわずと知れた名作フランダースの犬だ。元ネタというか、フランダースの犬を話すつもりだったのが、通じないだろう地名やらキリストやらを適当に置き換えたらタイトルから変わってしまった のだ。フランダースの犬彩雲国アレンジ改題。 「………主上、ほい、ちり紙」 「うっうっうっ……すまぬ」 ズビー。 「根呂……ぱとらっしゅ……うっうっうっ」 号泣して盛大に鼻水をかんでいるのは彩雲国の主、紫劉輝その人だ。 語り聞かせたのは後宮の女官、李真朱。こっちも語りながら名場面を脳内再生したいかうっすらと涙目である。つーかこれで泣かない奴は人間失格だと思う。少なくとも日本人はそう信じてる。 「ずび……余は、余は悲しい。こんな悲しい話を聞いたのは初めてだ。何が王だ。善良で才能ある少年一人守れぬ王なんて王失格だ……ぐす」 「え、そこまで深刻に受け止めますか!? つーか王様、フィクションだから! 橙州なんてどこにもないだろ!?」 真朱はフランダースの犬の破壊力を読み間違えていた。 翌日、王は昨夜真朱から伝え聞いた物語を側近の双花菖蒲に語る。霄太師に語る。邵可に語る。 物語は真朱の知らぬところで伝播していく。 そんなことは露知らず、真朱は主題歌を歌うたびに反射的に涙ぐむ主上の反応を見て、フランダースじゃなくてパブロフの犬じゃんと爆笑していた。 物語は真朱の預かり知らぬところで瞬く間に広まっていく。 劉輝はパトラッシュを想い、「犬を大事にしなさい」という法令を出そうとするとこまでいく。さすがに双花菖蒲に本気でどつかれて事なきを得たが、あわや彩雲国で生類憐みの令が発布されるところ だったわけで。 話を伝え聞いた碧幽谷が、根呂少年とパトラッシュが天界へ昇っていく画を描き、天文学的な値段が付いた、とか。 黄尚書まで仮面の下で涙したとか。 橙州の犬は千里を駆け抜ける。 兄経由でそれらの話を耳にした真朱は青ざめることになる。 (らららーらららーうたううたうちいさなちょうちょ直訳。わすれないよこのみちを) △ モドル ▽ |